健診のお知らせ

  • 一味ちがった歯の知識です。役に立つものも立たないものも。ひょっとして怪しい説も。
    会員が少しずつ書き足していきますのでたまにのぞいてくださいね。


         な   や ら 

■ 愛 (LOVE)

どうしてこの豆知識に「愛」なんて語句がでてくるのかとお思いですか。
間違い?いえいえそんなことはありません。
 
「Dentistry is a Work of Love(歯科は愛の業なり)」という言葉があります。
これは国際的な宗教家・評論家として活躍していた内村鑑三先生の言葉です。

先生は大正15年の夏、 長野県中軽井沢の温泉に逗留中、激烈な歯痛におそわれました。そのとき、当地で受けた歯科治療により、歯痛から開放されたそうです。この言葉は その心からの喜びと歯科医に対する感謝を表現した名言です。

歯科医療への賛辞としては異色のものでありますが、日本中の歯科医師に大切にされている言葉です。
私たち歯科医師会員は、この言葉を胸にあなたのためにベストをつくすことをお約束します。

診療室の壁に写真のような額が掛かっているのをご覧になったことがありますか?

もちろんそれはオリジナルではなくコピーです。現物は戦前には東京の九段にある日本歯科医師会の会長室の壁にあったそうですが、空襲で失われてしまったそうです。



■ アポロニア (聖女アポニア)

キリスト教殉教者のしるしであるシュロの葉を左手に持ってやさしく微笑む女性の絵です。この女性はアレクサンドリアの聖女 アポロニアです。

しかし、よく見ると、彼女がヤットコを右手に持って、しかもそれがしっかりと挟んでいるのが奥歯なのを発見するとちょっとびっくりしてしまいますよね。

ローマ帝国のアレクサンドリア出身の彼女は、異教の神々に犠牲を捧げることを拒み、そのうえ、その神々の像を破壊してしまったため、捕らえられ、歯を抜かれてしまいます。そして火刑を前に、キリスト教の信仰を捨てるよう強要されましたが、彼女は静かに短く祈りの言葉を口にし、自ら燃えさかる炎の中に入っていったといいます。

殉教の際に歯を抜かれたというのは大変めずらしいのでしょう。そんなわけで、アポロニアは歯科医の守護聖女とされており、歯痛に悩む人々の祈りの対象にもなっているのです。



■ 口臭

「あなたおねがいよ。息のかかるほどそばにいてほしい...」
なあんて耳元でささやかれたことがあるでしょうか?この時、息がくさかったら話になりません。

人が会話や呼吸で吐き出した気体が、たとえそれが病的でなくても他の人が不快に感じて悪臭だと判断されればそれは口臭といわれます。

つまり、口臭というのは自分ではなく他人によって判断されます。ですから、たった1人で生活しているならば、口臭は異常として意識されることはないでしょう。また、口臭のない人には臭気物質がまったく存在しないわけでは決してありません。実は、すべての人の口腔内に、臭気物質は必ず存在します。ただ、それが低濃度なので他人には感知できないというだけなのです。

人は他人を意識するようになって口臭というものを意識するようになります。つまり、自分に口臭があると、社会で他人と共存していくのに最も重要な要素である人間同志のコミュニケーションに大きな障害となるのは明らかです。口臭があれば話相手に不快感を与え、そのことで自分は恥ずかしい思いをしなければなりません。そして、そのことでプレッシャーを感じ、だんだんと行動も消極的になり、良好な人間関係を築けなくなり、社会的に孤立してしまいます。ですから、特に思春期以降の人間にとって、口臭が深刻な悩みになるのです。

また、口臭は自分自身では判断できないということも問題のひとつです。これは嗅覚が、きわめて順応しやすい、つまり持続するにおいはすぐに感じなくなるという特性があるからです。また、においの評価は受けとめる人の感情によっても大きく変わります。たとえば、赤ちゃんのおむつを替える時のにおいは母親にとってはまったく苦になりませんが、他人には悪臭でしかありません。また、自分のオナラは臭くないですよね。

さらに、口臭というものは他人による評価ですので、人間関係の軋轢や対立によって誤って評価(つまり、実際には臭くはないのに、「お前はクサイ」といわれる)されることもあります。現在、社会問題となっている学校でのいじめにこのことが当てはまることがあります。
 
近頃、よく言われているのが「加齢臭」という実態不明の言葉があります。これに口臭が含まれているようですが、どうも私には若者がオジサンをいじめるのに使われているように感じます。



■ 口臭の種類

においのない口臭とにおいのある口臭
さて,口臭にもいろいろな種類があります。

A.生理的口臭
 これは,すべてのヒトが多少とも誰でも持っている固有のにおいであり、起床時口臭、緊張時口臭、空腹時口臭などがあります。また,女性の場合、口臭と膣のにおいが生理周期によって変化します。 これらの口臭は避けることのできないもので対策を講じるまでもありません。

B.飲食物による口臭
 ギョウザや焼肉を食べたあとのニンニク臭や酒を飲んだあとのアルコール臭に代表されます。これらは、ニンニクやアルコールそのものが口の中に残留して悪臭の原因になるというよりは、むしろ消化吸収されて血液中にはいったものが肺でのガス交換で呼気に移行するため、あるいはその臭い物質が口腔粘膜に吸着するためにおこるといわれています。もちろん、この口臭はそれを食べなければにおいませんし、また時間の経過とともに解決します。

C.心因性口臭
 欧米人は日本人に比べると口臭に神経を使います。これは挨拶としてキスの習慣が生活に根付いているからでしょう。若者は恋人に、既婚者は配偶者に、老人は孫にチュッとしてもらうのが社会生活上たいへん重要な意義をもっているのです。もしも、口臭が原因でキスをしてもらえなくなれば耐えがたい孤独を感じることになり、彼らはそのことを恐れるのではないでしょうか。
 
昔は、たいていの日本人は口腔衛生にあまり関心がなく、ひどい口臭にもかかわらずそれを気に掛けない人が多かったのですが、最近は逆のケースが増えてきています。つまり、口臭がないのに自分自身は口臭があると信じこんで悩み、対人恐怖症や社会的不適応を生じている場合です。これは、心因性口臭,または、すこし変な用語ですが自臭症と呼ばれています。
 
この人たちが、口臭を治療しようとして歯科医院を受診する際に、
「友人や家族などから面と向かって口がくさいと指摘されたことはないけれども,どうも最近、友人が会話の最中に顔をそむけたり鼻に手をやったりするのは私の口臭のせいに違いない!」というふうに、他人の態度を自分の口臭と結びつけて訴える場合がほとんどです。この人たちの息を嗅いでみても病的なにおいはしませんし、口の中を見てみるとちゃんと歯をみがいて清潔ですし、これといった虫歯や歯周病もなく全身状態も健康で特に治療の必要は認められません。
 
自臭症の患者さんの場合、カウンセリング、薬物療法、自律訓練法、行動療法などの心身医学療法が症状や性格に合わせておこなわれます。容易に想像できるように自臭症になるような人は清潔ずきで几帳面な性格の人が多いといわれています。また、真面目で内向的であり思い込みが激しい傾向があります。最近の抗菌グッズに代表される過剰な清潔志向が、特に若い女性に広がっているようです。そのせいか若い女性の自臭症の患者さんが増える傾向にあります。

D.病的口臭
 何らかの病気が原因となって発生する口臭であり、真の口臭症です。これは、歯周病や虫歯といった口腔内の疾患が原因となっている場合が圧倒的に多く、もちろんその原因を治療しなければ口臭は治りません。
 
口臭の原因が口腔内ではなく、比較的重症の全身疾患の場合もあります。例えば、糖尿病のときの柿が腐ったような臭い(アセトン臭)、尿毒症のときのアンモニア臭、肝硬変や肝癌のときの魚くさい臭い(アミン臭)などがあります。

この場合、多くの患者さんがバッドテイストと表現される、常にいやな味を感じている状態にあるのが共通しているようです。これは舌の付根の部分が,揮発性の含硫化合物を含む唾液でおおわれることが原因です。さらに、白血病のように歯肉が壊死を起こすような病気は強烈な口臭があります。こちらがマスクをしていても、その患者さんが診療室に入ってこられただけで悪臭を感じます。特徴的な口臭ですので、歯科医師によって白血病が見つけられることもあります。



■ 口臭の原因と対策


口臭の素は細菌が作る

 現在,口臭ともっとも関連性があるといわれているのは、硫化水素(卵が腐ったようなにおい)、メチルメルカプタン(血生臭い,魚臭い,野菜が腐ったようなにおい)、ジメチルスルファイド(ごみ臭)といった揮発性硫化物であることがわかっています。その中でも、前の二者で口腔内臭気物質の約90%を占めます。これらの臭気物質は口腔内の嫌気性細菌(酸素がない環境を好む細菌)が唾液、血液、さらに粘膜から剥がれ落ちた上皮細胞や食物のカスに含まれるイオウを含んだタンパク質を分解することにより産生されます。つまり、唾液自体はもともと無臭なのですが、そこに含まれる細菌によって臭気物質が作られることによってにおうようになります。実際、口から吐き出した唾液を37℃で数時間おくとひどい悪臭がするようになります。
 
 口のなかで臭物質が作られる場所は、ほとんどの場合,歯周病に罹った歯肉と舌苔です。舌苔というのは舌の表面に生えている白い苔のようなものですが,もちろん苔ではなく、角化した舌の細胞です。ですから歯周病がひどくなって歯周ポケットが深いほど、また、舌苔が厚くなるほどその底のほうは酸素が少ない条件となって嫌気性細菌が多くなり、その結果、臭気物質の濃度が高くなるということになります。
 
 また、唾液の量も大きな要因のひとつです。つまり唾液は、口腔内の細菌やタンパク質、さらに臭気物質を胃に洗い流すことによって口臭の発生を抑えていますので、唾液の分泌が何らかの原因によって、障害を受けた場合(口腔内乾燥症)には口臭が強くなります。

口臭を防ぐにはやはり清潔がいちばん

 口臭というのは、容姿と同様に本人を前にして面と向かって指摘されることはまずないでしょう。
デリカシーに欠けるといわれる大阪人でも、
「はっきり言わせてもろたら、あんたの口はものすごう臭いで!」とは言いません。

容姿もそうです。まして東京人ならなおさら,
「正直に言おう。君の顔はものすごくブサイクだ」とは言いません。また、たとえ聞かれてもなかなか正直には答えにくいことも共通しています。しかし、顔のブサイクなのを治すのはたいへんですが、口のくさいのを治すのはそれよりずっと簡単です。
 
 病的口臭の場合は,その主な原因である歯周病と虫歯を歯科医師に治療してもらうことが一番大切です。とにかく、くさいにおいはもとから断たなくてはだめなのです。特に、歯周病の治療は重要です。現在の日本では,40歳以上の人の約85%は何らかの形で歯周病に罹っているといわれていますが、口臭の治療の大部分は歯周病の治療であるといっても言い過ぎではありません。歯周病を治療することで、ほとんどすべての口臭を訴える患者さんは治癒します。そして、ふだんから口腔内を清潔に保っておかなくてはいけません。そのために最も効果的なのが歯ブラシによるブラッシングです。ブラッシングは歯周病や虫歯の予防に重要であるばかりでなく、においの発生源となる細菌を除去し、産生された臭気物質をも洗い流して消臭をはかることができます。
 
 補助的にデンタルフロスを使うのも効果的です。デンタルフロスで歯と歯のすきまがきれいになります。映画“プリテイウーマン”でジュリア・ロバーツ演じるヒロインが、デートの途中トイレで歯の間にはさまったイチゴの種を取るのに使っていました。たまたまコールガールをしていても、本当はデンタルフロスをいつもバッグに入れているようなきちんとした理知的な女性であるということを観客に伝える演出でした。
 
 また,意外と見落とされるのが舌苔です。歯肉も健康,大きなムシ歯もないのにどうもくさい,という時は犯人は舌苔に間違いありません。分厚くなった舌苔の根元は嫌気性細菌がたくさんいますので,舌のクリーニングはとても効果があります。歯を磨くついでに歯ブラシで舌の表面をやさしくこすってください。ガーゼやタオルを指に巻きつけてぬぐってもよいでしょう。しかし,白い舌苔を全部取ってしまおうとして強くこすりすぎたり、あまり頻繁にやると、舌の表面が荒れてしまいますので,気をつけてください。最近,舌苔除去用のタンクリーナーと呼ばれる専用の器具も見かけるようになりました。

 ガムをかむことも一時的ではありますが、消臭効果があります。特に口臭予防をセールスポイントにしている商品は、銅クロロフィルナトリウムや茶の抽出成分を配合しているので,効果は大きいかもしれません。もともとガムをかむことは,唾液の分泌を促進しますので、口腔内の臭気物質を洗い流します。なお、ムシ歯を作らないために,言うまでもないことですがシュガーレスのものがよいでしょう。 口が乾燥していると口臭を強く感じます。そんなときは、水でブクブクうがいをするだけでも効果があります。また、たくさんの種類の洗口剤が市販されています。マウスウオッシュとかマウスリンスと呼ばれているものです。抗菌作用と消臭作用のある成分が含まれているものが多く,一時的にしろ,効果が期待できます。 もっと手軽な方法として、口臭が気になるときにお茶を飲むというのもいいでしょう。お茶の成分のカテキンは抗菌作用と強い消臭作用を持っています。
 
 くりかえしますが、くさいにおいは元から断たなくてはだめなのです。口臭は口腔内に原因がある場合がほとんどですので、まず歯科医師に相談するのがよいでしょう。そして、歯科医師が大丈夫と言ったらあなたの口臭は気のせいです。誰もあなたの口臭を気にしていませんよ。



■ 歯周病

 古代遺跡から出土した顎の骨に歯周病にかかった痕跡が認められますので、歯周病もむし歯と同様に人間とは長いつきあいのようです。古代エジプトのパピルスにも歯肉の腫れに対する治療法が書かれているそうです。
 
 現在、歯周病は40歳以上の人で健康な歯肉の人は約15%ぐらいと言われています。歯周病は歯を支えている組織(歯周組織)がじわじわと破壊されていく病気です。歯周病になっても初期には痛みなどの自覚症状がないままに進行していきます。歯肉から出血したり,歯肉が腫れたり、口臭がひどかったり、歯肉を押すと歯のまわりから膿がでたりするようになると病気は中程度以上に進んでいると思っていいでしょう。

歯がグラグラして「おかしいな,せんべいが噛まれへんがな!」となったときには、すでに歯を支えている骨(歯槽骨)の大半が失われています。下は具体的な歯周病の自覚症状の例です。

歯を磨くとき出血する
口臭がある(人から言われたことがある)
朝起きたときに口の中がネバつく
歯肉がムズムズする感じがある
歯が浮いた感じがする
グラグラ動く感じがする
歯の間にものがはさまりやすい
歯肉が赤く腫れた感じがする
歯肉を押すと歯と歯肉の間から血や膿がにじむ
歯が長くなった気がする
冷たいものでよく歯がしみる


ムシ歯に原因菌があったように歯周病にも原因菌があります。ただし、その種類はムシ歯の原因菌よりはるかに多く300種類にもなると言われています。その中でもポルフィロモナス・ジンジバリス、プレボテラ・インターメデイア、エイケネラ・コローデンス、バクテロイデス・フォーサイサスなどが主犯格です。これらの細菌は歯肉付近の歯と歯周ポケットの中にべっとりとくっついた歯垢の中に潜んでいて毒素を出して歯周組織を破壊していきます。また、歯垢の中の細菌は石灰化して歯石を作ります。歯石の表面はザラザラなので歯垢がつきやすくなりますから、さらに歯周病は進行してゆくことになるのです。

あなたの歯の裏はこんなことになってませんか?



■ 歯痛

 専門家はこの言葉を「しつう」と読みます。人間の痛みのなかで歯の痛みと痛風は最も激烈なものとして人々に恐れられています。原因はさまざまですが、最も多いのが虫歯が原因の痛みです。放置しても治ることはないですから、すぐに歯医者に行きましょう。


歯科医院で口をあけて治療を受けているときに、
「もし痛かったら左手を挙げてくださいね」
といわれたことがあるでしょう。それで手をあげると
「もうちょっとですからガマンしてくださいねえ」

なんてかえされて、いったいこの手をあげたのはなんだったんだろうかと思ったことがあると思います。


ある大阪のおばちゃんが虫歯ができたので歯医者に行った。
歯医者は彼女の口をのぞきこんで言った。
「こら大っきな虫歯やなあ。すぐに治療せなあかんがな」
歯医者が彼女のほうへ身を乗り出し、歯を削ろうとすると、彼女の右手が歯医者の股間をわしづかみにした。
歯医者はぎょっとして言う。
「奥さん、あんた私のアソコをつかんでまっせ!」

彼女は答えた。
「そうですで。せやけど、これで、お互い痛ならんように注意しあえますやろ?」




■ 唾液腺


3対の大きな唾液腺と数百個の小さな唾液腺
 
 唾液は、その大部分が左右両側に一対ずつ存在する3種類の大唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺)から分泌されます。それ以外に小唾液腺(歯肉以外の口腔粘膜に数百個存在します)からも少量ですが唾液が分泌されます。

 耳下腺は三大唾液腺の中で最大で、頬の皮膚のすぐ下で顎の下の後端から耳の下の範囲に存在しています。おたふくカゼの時にパンパンに腫れるのがこの耳下腺です。耳下腺からでる唾液は一本の管(発見者の名前からステンセン管と呼ばれています)を通じて、上顎の第2大臼歯あたりの頬の粘膜に開いている穴から口の中に分泌します。口を大きくあけて手鏡で自分の頬粘膜をのぞいて見てください。直径が2~3mmぐらいのまわりと少し色がかわって,ぷくっとふくれた場所があります。人によっては垂れ下がるくらい大きいのもありますので簡単に見つけられます。これは口内炎ができているのではありません。耳下腺乳頭といって、ここに耳下腺の管が開いているのです。試しにその場所をテイッシュペーパーなどでぬぐって、しばらく観察していますと、透明のきれいな唾液のしずくがそこから湧いてくるのがわかります。

 病院実習が始まったばかりの学生が患者さんの大きめの耳下腺乳頭を見て、
「先生!腫瘍を見つけました!」
と騒ぐことがあります。もちろん、その学生は,三日ぐらいは食欲がなくなるぐらい先生におこられることになります。また、一般の人でも自分の口の耳下腺乳頭とか、舌下のヒダを見て、ガンではないかと心配して歯医者さんに相談に来られる方がたまにいらっしゃいます。そんなとき、口の反対側の同じ位置に同じようなものがあることを説明してあげるとほとんどの方が納得されます。ガンなどの腫瘍が左右対称にできることはまずありません。
 
顎下腺は耳下腺の半分ぐらいの大きさで、下顎の骨の内側で口腔底の下にあります。顎下腺からでる唾液は、やはり1本の管(これも発見者の名前からワルトン管と呼ばれています)になって、舌の下に開いている穴から口の中に分泌します。口をおおきく開けて舌をもちあげてその先を上顎につけると真中に細長いヒモ(舌小帯)が舌の裏をひっぱているのが見えます。その下のほうがもりあがっていますが、これを舌下小丘といい、ここに顎下腺の管が開いています。これは人によっては数本にわかれて開口している場合もあります。

 舌下腺は3大唾液腺の中では最小で、顎下腺の20%ぐらいの大きさです。口腔底のすぐ下にあり顎下腺の開口部の近くに数個から十数個にわかれて舌下腺唾液の管(これも発見者の名前からリビナス管と呼ばれています)が開口しています。

唾液の性状

 それぞれの唾液腺から分泌される唾液はそれぞれ性状が異なっています。つまり、耳下腺唾液はさらさらとして水に近い感じで、舌下腺唾液と小唾液腺唾液はその反対に糸をひくような,ねばねばした唾液です。顎下腺唾液はこれらの中間の粘度といった感じでしょうか。
 
 口腔内にある唾液はこれらの唾液腺から分泌する唾液以外に、歯肉溝滲出液といって、歯と歯肉の間のすきま(歯周ポケット)からわずかにでてくる液体が1%ほど混じっています。この歯肉溝滲出液は、その組成は血漿とほぼ同じものですから,唾液の成分には血漿由来の物質が含まれていることになります。さらに,重症の歯周病に罹っている歯肉からは少しづつ出血があるでしょうし、気管分泌液、鼻汁もわずかですが混入します。また、細菌や食べカスもあります。ですから、研究者は,口腔内の唾液(いわゆるツバ)を特に全唾液とか,口腔内環境液といって,純粋な唾液とは区別して呼んでいます。

 各唾液腺から分泌される純粋な唾液は,ヒトでも動物でも、透明で、においもなくとてもきれいなものです。実際に学生は、互いに被験者になって特殊な器具を使って耳下腺の純唾液の採取を実習します。耳下腺乳頭にくっつけたチューブから無色透明の唾液がぼたぼたと出てくるのを指さして、私が「これが,耳下腺の純唾液だ」と説明すると、学生は「ウッソー!」とか「まじっすか」と叫びます。ただし、これは「先生の言っている事は誤りだ!」とか「まじめに講義をやれ」いう意味ではなく、単に「びっくりした」とか「感動した」というような意味です。最近の若者のいうことは訳がわかりませんなあ。

唾液は血液からつくられる

 唾液腺は血液を原料にして唾液を作ります。その時のメカニズムはたいへん複雑で、現在のところそのすべてが完全に解明されているわけではありません。
 唾液腺はちょうど“ぶどうの房”のような構造をしています。ぶどうの粒にあたるところが,腺房部と呼ばれる部分で房の内部の枝分かれした茎にあたる部分が線条部導管(唾液腺内の特殊な導管の部分)と呼ばれています。

 唾液は二段階の過程を経て生成されます。ちょうど腎臓における腎小体での分泌と尿細管での再吸収と同じメカニズムです。つまり、第一段階で、まず、腺房部が唾液を分泌します。この唾液を第一段階の唾液という意味で原唾液といいます。この腺房部で分泌された唾液は血液と同じようなイオン組成です。次の段階では腺房部で分泌された唾液が導管の中を口腔内に向かって流れる間に、線条部導管が能動的にイオンを吸収して唾液を水に近い組成に変えていくのです。これらの過程で唾液腺はたいへん多くのエネルギーを消費します。酸素消費量は、同じ1gあたりでは筋肉の約6倍ですし、全身の総エネルギー代謝の0.7%は唾液腺によるものです。このことから、唾液腺は小さい割には活動の激しい臓器であることがわかります。



■ 歯医者

悪魔の辞典(The Devil's Dictionary)は、アンブローズ・ビアス著の1911年にアメリカで発表された書籍です。ふつうの辞典の体裁でさまざまな単語を定義していますが、その定義が痛烈な皮肉やブラックユーモアに満ち溢れ、通常の辞書とは一線を画しています。

この辞典では、歯医者は
人の口の中に金属をすりこみつつ、ポケットからコインをすりとる手品師
と定義されています。



■ 歯のけが

 ケガで歯が抜けてしまった場合でもあきらめるのは早いですよ。もう一度植えなおす(再植)ができる可能性が高いです。再植治療の重要なカギとなるのが歯根膜と呼ばれる歯の根を覆っている組織です。これが生きた状態で保存されていればほぼ元通りに再植できるが、乾燥してしまうとその可能性は極めて低くなります。歯のケガが発生した場合、歯根膜をいかに生きた状態で保ち、歯科医へ渡せるかということがその後の治療に大きく影響してきます。

 歯が抜け落ちてしまった場合、ティッシュぺーパーやハンカチに包んで来院するケースがほとんどですが、これはだめです。専用の保存液があるのですが救急箱に常備しているお家はまずないでしょう。乾燥を避けるために冷たい牛乳で代用できます。水道水は塩素が含まれているのでよくありません。口の中に保管することも可能ですが、小さいお子様で口の中が切れたりしていると難しいかもしれませんね。

 多少の汚れがついていても歯冠部をサッと洗い流す程度ですぐに液につけてほしいです。できるだけ早く歯医者さんにいってください。



■ 満年齢

歯とは直接関係のないことですが、歯医者さんやお医者さんにかかるときに関係するかも知れない話です。
例えば乳幼児医療や高齢者医療などは、満年齢に達した日に資格がなくなったり、また逆に発生したりします。皆さんはこの満年齢は誕生日当日にひとつ増えると思い込んでいませんか?

実は誕生日の前日にひとつ増えるのです。これは、民法第143条の「年齢計算に関する法律」で定められています。例えば5歳で4月1日に誕生日のお子さんは、3月31日に6歳になり、健康保険でいうところの乳幼児ではなくなります。乳幼児保険証の有効期限欄には例えば平成19年4月まで有効と記載されていますが、実際には誕生日の前々日に有効期限は切れるということです。 逆に、老人医療では誕生日の前日に資格が発生することになります。

選挙でも4月1日に実施される場合は3月31日に20歳になる人にも選挙権は与えられます。



■ ミュータンス菌



■ 虫歯の主役、ミュータンス菌

 18世紀後半までは歯を食べる虫がムシ歯を作ると考えられていました。現在では、ムシ歯は感染症の一種で、細菌が原因でおこることは誰でも知っています。確かにネズミを使った実験では、無菌の状態で出産させて,無菌シールドの中で飼育すればいくら砂糖を食べさせてもムシ歯はできないことが証明されています。

 ムシ歯の原因菌として、ストレプトコッカス・ミュータンス(ミュータンス菌)が代表格です。ストレプトコッカスというのは、しなやかに連なる(streptus) 粒(coccus)という意味で、形による分類上の連鎖球菌のことです。また、ミュータンスは変種(mutant)という意味です。ストレプトコッカス・サンギス(血液から分離された連鎖球菌の意味)も関係があるとされています。また、乳酸悍菌のラクトバシラスはいったんできたムシ歯を広げるような働きをしますし、放線菌のアクチノマイセス・ビスコーサスは歯の根っこの部分にムシ歯を作ることが知られています。

 これらの細菌の中で、最も重要なのはなんといってもストレプトコッカス・ミュータンス(ミュータンス菌)です。ミュータンス菌が歯を溶かしてムシ歯を作るのにはまず歯にくっつかなければなりません。ミュータンス菌はショ糖(砂糖)から不溶性グルカン(デキストラン)といってネバネバで水に溶けにくい物質を作ります。このネバネバ物質によって細菌はお互いにくっつきあい、そして歯の表面にくっつくことができるのです。これが歯垢(プラーク)で,細菌がぎっしりパックされたようなものです。歯垢は80%が細菌ですから、この中のミュータンス菌をはじめとするムシ歯菌が、どんどん酸を作って歯の硬い組織を破壊していきます。そしていったん破壊された歯の組織はざらざらになり,さらに歯垢がつきやすくなります。
 このように、ムシ歯はゆっくりと進行していくのです。

 しかし、ムシ歯菌だけが原因でムシ歯ができるわけではありません。確かにムシ歯菌の有無は最も重要な因子ですが、いくらムシ歯菌が口の中に棲みついていてもネバネバ物質の原料である糖がなければ歯にくっつけません。また,歯の質(酸に侵されやすさ)、唾液の質と量も関係してきます。これらはムシ歯に対する個人の抵抗性と言うことです。最後に、時間の問題があります。ムシ歯菌は一瞬の内にムシ歯を作るわけではなく、糖から歯垢を形成して酸を作りはじめるようになるのに24時間ぐらいかかると言われています。これらはムシ歯の4大因子と呼ばれて図のように説明されています。この図で輪の重なった条件でムシ歯が発生すると言うことです。

ムシ歯の4大因子

輪が重なった場合、つまり4つの因子が全部そろったときに始めてムシ歯ができます。つまり、この考え方によれば,この条件のうち一つでも欠ければムシ歯にならないということになります。



■ むし歯

ムシ歯というのはいったいいつ頃から人類にあったものなのでしょうか。

 歯は人間の体の中で最も硬い部分ですから、古代人の歯が土中でも腐らないでよく残っていることが多いのです。それを発掘して調べたところによると紀元前4世紀にはすでに20人に一人ぐらいの割合で奥歯の咬合面の溝にムシ歯が見られるそうです。
 その後、時代が下るとともにムシ歯は増える傾向にありますが、江戸時代までのムシ歯を持つ人の割合は12-17%ぐらいであっただろうと考えられています。

 平安時代には,紫式部は光源氏に
「御歯の少し朽ちて口の中の黒みて笑みたまへる」と,
ニコッと笑った口元からムシ歯の黒いところがちらっとみえるのもカワイイと言わせています。
現代の私たちにはちょっと理解しにくい感性です。

また,枕草子にも
「十八九ばかりの髪いと麗しく丈ばかり(中略)いみじう色白う顔、愛敬づきよしと見ゆるが,歯いみじう痛みて額髪もしとどに泣き濡らし乱れかかるもしらず…」
と長い美しい髪の色白のかわいらしい年頃の女が歯が痛くて涙にぬれた髪の毛が顔にかかってと描写しています。

 ただし,ムシ歯の多い少ないは、食生活に大きく影響を受けます。ですから,同じ時代でも貴族は農民や漁民に比べて柔らかいもの、甘いものを食べていたのでムシ歯になりやすかったと考えられます。たぶんこの時代には庶民は甘いものなど食べられませんからムシ歯になりようがなかったでしょうからムシ歯は上流貴族階級のシンボルと言っていいでしょう。

 意外なのが縄文、弥生時代の人にムシ歯が多いことです。それもほとんどが奥歯の頬側の面にできているのが特徴です。この時代の人は意外とデンプンを多く摂っており、それをクッキー状、粥状にして食べていたので,歯垢を作りやすく、特に奥歯の頬の面にムシ歯を作ったのでしょう。おそらく、縄文,弥生人は歯の間にはさまった繊維状の食べカスは気持ちが悪いでしょうから、小枝のようなもので取ったでしょうが,歯の面を清掃することはなかったと思います。

 古代から現在まで,人はムシ歯にならないため、歯を白くするため,歯周病で歯がグラグラしないために様々な事をしてきました。例えば、ローマ人は処女のオシッコで口をすすぎ、動物の骨を焼いた灰で歯を磨いたそうですし、16世紀のリビエールという学者は硫酸に浸した木片やタバコの灰で歯を磨けと言っていたそうですから驚きます。

日本人はかなり昔から塩で歯磨きしたようです。特に江戸時代には「赤穂の塩」と「吉良の塩」は食用だけでなく焼塩として江戸の人々の歯磨きにも使われ,お互いに商売仇だったようです。あの有名な忠臣蔵の事件と何かの関係があるのかも知れません。

虫歯は貴族のシンボルだったのかも?



■ ワクチン

 これからのムシ歯予防の切札はムシ歯予防ワクチンの開発であろうと考えられています。ワクチンと言えばジェンナーが作った天然痘に対する種痘の話は誰でも知っているでしょう。

 今日の私たちの社会では結核,ジフテリア,破傷風,風疹などのワクチンが用いられています。これらのワクチンのおかげで私たちは恐ろしい感染症から守られているのです。




■ ムシ歯ワクチン

 ワクチンが作れる病気というのは,その病気の原因となる細菌やウイルスが発見されていなければなりません。ムシ歯菌として最も重要なものはご存知ミュータンス菌です。多くの研究者はこのミュータンス菌に対する抗体が口の中に常にあればムシ歯のできるのを抑えることができると考えています。

 まず,最初に考えられたのは,古典的な方法で,死んだミュータンス菌を唾液腺に注射したり,飲ませたりして唾液のIgAのミュータンス菌に対する抗体値を上昇させるという試みでした。この方法は動物実験では確かにある程度の効果はあったのですが副作用も強くてヒトに応用されるには至りませんでした。

 そこで,ミュータンス菌を死滅させるのではなく歯にくっつくのを阻止しようという考えが生まれました。先にお話したようにミュータンス菌がいくらたくさんいても歯にくっつかなくてはムシ歯をつくることができません。そこで,ミュータンス菌の細胞表面の接着構造を破壊すること,またはネバネバ物質を作る酵素の合成を阻害する抗体が遺伝子工学の手法で開発されています。つまり,ミュータンス菌の接着阻害ワクチンということになります。

 その他に,抗体を使ってミュータンス菌が酸を作らないようにする方法や,歯周ポケット(歯と歯肉の間にある溝)の中からでてくる白血球のミュータンス菌を食べる作用を促進させようという考えもあります。



■ 歯周病ワクチン

 歯周病の原因菌は,ムシ歯菌にくらべて種類がはるかに多いためにワクチン治療は難しくなります。その中で,遺伝子工学の手法を用いて唾液腺にウイルスベクターを感染させて歯周病菌を殺す抗体をつくらせる方法が考えられています。ウイルスベクターというのはヒトの細胞に外来遺伝子を送り込む性質のあるウイルスに,目的とするタンパク質(この場合は歯周病菌抗体)を作る遺伝子を組み込むものです。こうして唾液腺細胞は抗体を作り唾液中に分泌し続けることになります。
 
 ムシ歯や歯周病は命にかかわるような病気ではありませんが世界中で多くの人々がかかっています。ムシ歯ワクチンまたは歯周病ワクチンと,世界で最も注目されているエイズワクチンとではどちらが先に完成するでしょうか。将来,一度ワクチンを使えば一生ムシ歯にはならないで済むということになるかもしれません




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